最終更新日 2024.10.7
SNSが一般化したことによって、誹謗中傷の被害が増えており、会社やサービス、場合によっては社長や社員が被害にあうケースが増えています。誹謗中傷の内容によっては、会社の収益に大きな影響が及ぶこともあるため、看過できない場合もあるでしょう。
そこで今回は、ネットにおける誹謗中傷の概要や、慰謝料の請求方法や相場などについて解説します。
誹謗中傷とはどのような状況なのか
そもそも誹謗中傷とはどのような状況なのか解説するとともに、おもな罪の成立条件と刑罰について解説します。
誹謗中傷とは
誹謗中傷とは、事実に反する内容を根拠にして、悪口を言いふらす行為のことです。口頭による実施だけではなく、SNSやネットの掲示板などで事実無根の悪口を言いふらす行為も誹謗中傷に該当します。
一方、誹謗中傷と間違えられやすい行為として批判が挙げられますが、両者の棲み分けには曖昧な部分があるため注意が必要です。批判とは相手の主張や意見に対して、矛盾や欠点を指摘し検討したうえで、評価・判断を下す行為といえます。そのため、誹謗中傷とは性質が異なりますが、口調や内容によって相手側に誹謗中傷だと捉えられる可能性は否定できないため気をつけましょう。
名誉毀損罪の成立条件と刑罰
名誉毀損罪(めいよきそんざい)とは、公然と事実を示すことによって、人(または法人)の名誉や社会的評価を下げることで成立する罪です。簡単に説明すると、公の場で第三者の名誉に傷をつけ、社会的評価を下げることが名誉棄損罪といえるでしょう。
例えば「社長の借金が原因で奥さんと離婚した」という事実をネット掲示板やSNSで晒した場合には、名誉棄損罪に問われる可能性があります。なお、名誉棄損罪が成立した場合の刑罰は、3年以下の懲役もしくは禁錮、または50万円以下の罰金です。
名誉棄損罪の場合、公然と晒した事実が真実であるかどうかについては問われません。あくまでも、事実を広められた人の名誉や社会的評価が下がったかどうかが争点となります。ただし、晒した事実が公共の利益を害するものや、社内における不正の内部告発など公益を図る目的のもの、また公に晒した事実が真実であることを証明できる場合には、名誉棄損罪の免責事項になる可能性が高いです。
侮辱罪の成立条件と刑罰
侮辱罪とは事実を提示することなく、公に人(または法人)を侮辱することで成立する罪です。名誉棄損罪と似ていますが、具体的な事実を示さない点が大きな違いといえます。また、名誉棄損罪は名誉や社会的評価が下がった場合に成立しますが、侮辱罪は人を侮辱することで成立する点が違いです。
侮辱罪が成立すると、拘留または科料が刑罰として科されます。ただし、侮辱罪の告訴ができる期間は、犯人特定から6ヶ月以内です。そのため、ネットへ誹謗中傷の事実が投稿されてから6ヶ月以上経過した場合には、侮辱罪が成立していたとしても告訴できなくなるため注意しましょう。
信用毀損罪と業務妨害罪の成立条件と刑罰
信用毀損罪(しんようきそんざい)とは、虚偽の風説流布や偽計を用いることで、人(または法人)の信用を毀損することによって成立する罪です。
虚偽の風説流布とは事実無根の内容を不特定多数の人へ伝播する行為で、偽計を用いるとは第三者を欺いたり、欺かれた当人がその事実に気づかなかったりする状況をさします。また、信用毀損罪で問われる信用とは、支払い能力や商品やサービスの品質など、経済面に関する社会的信用のことです。
実際に被害者が社会的信用を失っていない場合でも、信用が低下する恐れがある行為を受けた場合には、信用毀損罪として訴えることができます。信用毀損罪の刑罰は、3年以下の懲役、または50万円以下の罰金です。
一方、信用毀損罪とよく似た罪として偽計業務妨害罪が挙げられますが、こちらは虚偽の風説流布や偽計を用いることで、人(または法人)の業務を妨害することによって成立する罪です。つまり、誹謗中傷によって仕事に悪影響が出た場合に、成立する罪といえます。
偽計業務妨害罪の刑罰も信用毀損罪と同じ、3年以下の懲役、または50万円以下の罰金です。両方の罪が一度に成立するケースも多いのですが、その場合は罪が重いほうの刑罰が科せられます。
ネットで誹謗中傷されたときの慰謝料の相場
ここまでに紹介した、それぞれの罪が成立した場合に発生する慰謝料の相場を紹介します。
名誉毀損による慰謝料の相場
名誉毀損の慰謝料の相場は、おおむね100万円程度と言われていましたが、500万円を超える高額な慰謝料を認める裁判例も出てきています。被害者の場合よりも、法人の場合の方が高額になる傾向もあります。慰謝料については、名誉棄損の内容や行為などによっても、金額は大きく変化するため注意が必要です。
侮辱行為による慰謝料の相場
侮辱行為の慰謝料の相場は、10万円程度だといわれていますので、10万円以上の高額な慰謝料の請求は困難でしょう。
信用毀損行為と業務妨害行為による損害賠償
信用毀損行為および業務妨害行為により、事業主である個人や法人が被った損害を賠償しなければなりません。信用毀損行為および業務妨害行為がなされると、通常生じると考えられる損害は当然に賠償しなければなりません。
誹謗中傷による慰謝料が高額になるケース
誹謗中傷による慰謝料が高額になるケースは、被害者側が被ったダメージの大きい場合や、加害者側の行為や誹謗中傷の内容が悪質な場合などが考えられます。
例えば、TVなどで大々的に放送され、被害者の社会的評価が著しく下がった場合には、数百万円の慰謝料が科せられる可能性もあるでしょう。また、事業やサービスの評判が著しく悪化し、収益に悪影響が出た場合には、その営業損出額も加算して損害賠償請求ができます。
また、ネットで誹謗中傷をした加害者が、著名人やインフルエンサーなど社会的影響力が強い方だった場合には、慰謝料も大きくなる可能性が高いです。
ネットで誹謗中傷されたとき弁護士に依頼する流れと費用の相場
ネットで誹謗中傷の被害にあった際、弁護士へ依頼する大まかな流れと費用相場を紹介します。
1:誹謗中傷の証拠集め
誹謗中傷をした相手を控訴するために必要な証拠を集める必要があります。
まず、相手の個人情報が必要です。誹謗中傷をした相手が特定できなければ、慰謝料の請求はできません。具体的には住所、氏名、電話番号、メールアドレス、SNSのアカウントなどの情報が該当します。
次に誹謗中傷の事実を立証するために、投稿内容の保存が必要です。誹謗中傷の証拠としてネット上にアップされている投稿内容のスクリーンショットや画面の印刷、誹謗中傷の投稿が行われているURLなどの情報を収取します。
ネット掲示板やSNSへの投稿内容は、ユーザー側で削除することが可能です。そのため、誹謗中傷の事実を抹消して相手が逃げる可能性があるので、必ず証拠を押さえておく必要があります。なお、ウェブ魚拓というサービスを活用することで、ネット上にあるWEBページをそのままの状態で保存できますので、こちらも有効活用しましょう。
2:SNS・サイトの管理会社へIPアドレスの開示請求
ネット掲示板やSNSでは匿名で投稿しているユーザーが多いため、相手の個人情報を集めることが困難になることが一般的です。そのため、ネット掲示板やSNSの運用会社へIPアドレスの開示請求を行って、相手を特定する必要があります。
ただし、会社によってはユーザーのIPアドレス開示に応じない場合もあるため、その場合には以下で解説する発信者情報開示請求の仮処分申し立てを行わなくてはいけません。
3:プロバイダへ情報開示請求
IPアドレスが入手できたら、次はプロバイダの特定をおこないます。「CMAN」や「IP SEARCH」などのサービスを活用して、プロバイダを特定しましょう。
ただし、プロバイダ側でログが保存される期間は3か月程度のため、できるだけ早めにアクセスログなどの保存請求を行う必要があります。プロバイダからログを保存した旨の連絡を受けた後、相手側の情報開示請求を行いましょう。
ただし、拒否される可能性が高いため、その場合は弁護士を通じてプロバイダへ発信者情報開示請求訴訟を実施します。
必要に応じて発信者情報開示請求を実施
ネット掲示板やSNSの運用会社、プロバイダが相手側の情報を開示してくれない場合は、裁判所を介して仮処分の手続きを行った上で、発信者情報開示請求訴訟の実施が必要です。
なお、発信者情報開示請求は自分で行うことも可能ですが、運用会社やプロバイダが情報を開示してくれる可能性が極めて低いでしょう。そのため、弁護士を介して仮処分の手続きを行った後、発信者情報開示請求訴訟を行うことをおすすめします。
発信者情報開示請求訴訟の結果、裁判所から運用会社やプロバイダへの開示を認める判決が出され、誹謗中傷を行った相手の住所氏名、電話番号やメールアドレス、IPアドレスといった情報の開示が行われることになります。これにより、相手側を特定することが可能です。
4:慰謝料の請求
特定した相手の住所やメールアドレス宛てに、慰謝料の請求を行います。弁護士を介して相手側と交渉を行い、慰謝料の金額を決めていく流れが一般的です。
ただし、相手側との交渉が決裂した場合には、損害賠償請求訴訟を実施する必要があります。
弁護士への依頼費用の相場
弁護士にネットで誹謗中傷をされた相手への慰謝料請求依頼をした際の費用相場は、裁判をしなかった場合で、請求する金額にもよりますが、着手金が10~30万円程度、報酬金が慰謝料の10%程度は必要です。一方、裁判を行った場合は、着手金が20~60円程度、報酬金は慰謝料の10%程度は必要です。
また、弁護士に発信者情報開示請求の依頼をした場合には、別途60~80万円程度の費用が必要です。ただし、こちらの金額は誹謗中傷を行った相手側へ請求できる場合もあります。
ネットで誹謗中傷被害にあったときの相談先
実際にネットで誹謗中傷被害にあった場合に、相談するべき相手を紹介します。
弁護士
ネットで誹謗中傷被害にあった際には、弁護士に相談することをおすすめします。費用は必要ですが、前述した面倒な手続きをほぼ代行してもらえる点や、スピーディーに手続きが進むため迅速な被害収束へつながる点がメリットです。
また、弁護士に依頼することで初期対応を適切に行ってくれるため、二次被害の拡大防止にもつながります。
国が設置した相談窓口
国が設置した相談窓口へ、ネットでの誹謗中傷被害の相談をすることが可能です。
ただし、これらの相談窓口はあくまでも相談相手のため、アドバイスはしてくれますが、実際の手続きは行ってくれないことを覚えておきましょう。
いざというときのリスクマネジメントが重要
ネットでの誹謗中傷被害は放置すると、会社の評判や収益低下につながる可能性があるため、迅速な対応が求められます。そのためには適切なリスクマネジメントが必要です。
株式会社エフェクチュアルでは、逆SEO対策やリスク検知ツールを活用することで、ネット上の誹謗中傷や、ネガティブな情報の拡散を防ぐサービスを提供しています。また、現状どの程度誹謗中傷の被害を受けているかわからない場合には、無料の「WEBリスク診断」の実施がおすすめです。
ネット上の風評被害の抑制・予防策として、サービスの利用を検討してみてはいかがでしょうか。
監修者:坂東大士 弁護士
大阪弁護士会登録の「澁谷・坂東法律事務所」代表弁護士。
現在に至るまで25社以上の顧問会社があり、企業法務、民事再生・倒産、インターネット問題、債権回収、労働問題などに対応。