最終更新日 2024.10.7
「ハラスメントなどの従業員とのトラブルが増えてきている気がする。」
「労務リスクを防ぐために何か対策を考えなきゃならないけど、どこから手を付けたらいいのか分からない。」
労働環境が変化する現代において、このように企業はさまざまな労務リスクに直面しています。ハラスメント、長時間労働、不当解雇など、これらのリスクは労働者の権利を侵害し、法的なトラブルに発展する可能性があります。さらに、適切な対策を講じなければ、従業員との信頼関係が崩れ、企業の評判が損なわれる危険性があります。
この記事では、企業が知っておくべき労務リスクの種類と、その回避策について詳しく解説します。労務リスクを理解し、適切な対策を講じることは、企業の持続的な成長と健全な労働環境の構築に欠かせません。
この記事を通じて、自社の労務リスク管理の重要性を再認識し、具体的なアクションプランを立てましょう。
労務リスクとは
労務リスクとは、企業と従業員の間で労働問題が発生するリスクを指します。これには過重労働、労働災害、ハラスメント、残業代未払い、不当解雇などが含まれます。
多くの人が関わる組織では、コンプライアンス遵守を完全に行うのは難しいため、どんな企業にとっても労務リスクで多大な損害を被る可能性はゼロではありません。
厚生労働省が発表している「令和5年度個別労働紛争解決制度の施行状況」によると、「総合労働相談件数」は4年連続で120万件を超え、高止まり状況が続いています。
労務リスクは、従業員が身体的・精神的に受ける苦痛や不満が原因で発生する傾向にあり、悪化した場合は損害賠償請求や従業員の離職に発展します。トラブルを回避するためには、日ごろのコミュニケーションや労働基準法に沿った経営・管理が重要です。また、就業規則の周知徹底や労働法の理解、相談窓口の設置、コンプライアンスの徹底もポイントとなります。
労働リスクの種類
近年、企業を取り巻く労働環境は複雑化し、労働リスクへの対応がますます重要視されている中、企業が直面する労働リスクは多岐にわたります。
労働リスクが顕在化すると、企業の信用や経営に大きな影響を与える可能性があるため、リスクを理解し、予防策を講じることが不可欠です。
そこで、代表的な労働リスクの種類について解説し、それぞれのリスクが企業や従業員にどのような影響を及ぼすのか説明します。企業が抱える労働リスクの理解を深め、適切な対策を講じていきましょう。
長時間労働
長時間労働は、従業員を疲弊させ、生産性や業務効率の低下を引き起こします。長時間労働が続くと、従業員の心身の健康状態が悪化し、過労死や過労自殺に至るケースも少なくありません。
日本の労働基準法では、「原則として従業員を1日8時間、週40時間を超えて労働させてはならない」と法定労働時間が定められています。時間外労働をする場合でも、月45時間、年360時間の時間外労働の上限が定められており、これを超えて働かせた場合には「6か月以下の懲役、または30万円以下の罰金」が科されます。
法定労働時間と時間外労働の上限に関して、36協定を結んだ場合でも、時間外労働の上限は「月45時間、年360時間」となっています。さらに、特別条項付きの36協定を結んだ場合でも、時間外労働の上限は「年720時間以内」「複数月平均80時間以内(休日労働を含む)」「月100時間未満(休日労働を含む)」「月45時間を超えることができるのは、年6回まで」と規定されています。
長時間労働が続くことで事態が悪化した場合、従業員やその家族による損害賠償請求や、企業イメージの悪化につながる可能性があります。従業員の健康を守り、企業の持続可能な発展を目指すためには、適切な労働時間の管理が不可欠です。
残業代の未払い
残業代の未払いは、企業と従業員の間で深刻な労働問題を引き起こします。国内における未払い残業代の総額は年間およそ100億円にも上ると言われており、企業にとっては大きなリスクです。
残業代の未払いが発覚した場合、労働基準監督署による是正勧告を受けることになります。場合によっては遅延利息や付加金の支払いを求められることもあり、企業の財務負担が増加します。
また、労働基準法第37条違反として6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科される可能性があります。
残業代未払いの事実が公になった場合、企業の社会的信頼が失墜し、ブランドイメージに大きなダメージを与える可能性があります。企業は、労働時間管理を徹底し、適正な残業代を支払うことが重要です。これにより、従業員の満足度を高め、労働環境を改善することができます。
ハラスメント(暴力、セクハラなど)
企業内で発生するハラスメントには、セクシャルハラスメント、モラルハラスメント、パワーハラスメントなどがあります。近年、働き方の多様性が重視される中で、このように新たなハラスメントが次々と登場し、そのリスクは増加しています。
ハラスメントは、民法上「不法行為」と見なされる可能性があります。法令によって定義されているハラスメントには防止措置が義務付けられており、これらのリスクが発生した場合、企業にとっては大きな問題となります。
ハラスメントやそれに伴う従業員のメンタルヘルス不調は大きな社会問題となっており、社会の目も年々厳しくなっているのが現状です。
ハラスメントは、被害者の主観が重視されるため、意図していない言動や行動が苦痛と感じられる場合もあるため注意が必要です。被害を受けた従業員は、職場で能力を十分に発揮できなくなったり、離職に繋がることがあります。さらに、ハラスメントは社内の秩序を乱し、民事訴訟に発展した場合には企業のイメージが悪化します。
労働災害
労働災害は、仕事中や通勤中に発生する怪我や病気のことを指します。
労働災害が発生し、従業員が負傷した場合、企業は貴重な人材を失うリスクがあります。さらに、被害を受けた従業員に対する補償のための金銭的な負担に加え、労災を起こしたことに対する社会的信用の損失も大きなリスクとなります。
労働災害を防ぐため、労働安全衛生関連法令により、事業主には災害防止のための措置が義務付けられています。
危険防止の措置:機械の安全装置の設置や危険箇所の明示など、物理的な危険を取り除く対策
健康管理の措置:定期健康診断の実施や職場環境の改善、従業員の健康状態の把握
安全衛生管理体制の整備:労働安全衛生管理者の配置や安全衛生委員会の設置など、組織的な体制の整備
安全衛生教育の実施:新入社員研修や定期的な安全教育の実施、危険作業に従事する従業員への特別教育
また、労働災害が発生した場合、事業主は速やかに労働基準監督署に対して指定の申請手続きを行う必要があります。被害を受けた従業員が適切な補償を受けることができるよう、企業としての法的責任を果たすことが重要です。
不当解雇
不当解雇とは、正当な理由なしに従業員を解雇することを指し、これが発覚すると訴訟に発展し、損害賠償の支払いや企業イメージの低下などの問題が生じるリスクがあります。不当解雇は精神的なダメージに加え、従業員の今後の人生にも大きな影響を与えるため、極めて深刻な問題です。
従業員を解雇する際には、客観的かつ合理的な理由が求められます。その理由が社会の常識に照らして解雇に相当するものであることが必要です。解雇には主に3種類あり、それぞれに異なる要件があります。
正当な理由なく行われた解雇は、労働基準法や民法の「不法行為」として違法とされ、解雇された従業員からの訴訟リスクが高まります。企業は、解雇を行う前に十分な調査と確認を行い、適切な手続きを踏むことが重要です。
情報漏洩
情報漏洩は、企業にとって重大な労働リスクの一つです。顧客の個人情報が漏洩した場合、企業は社会的信頼の低下や行政処分に直面する恐れがあります。情報漏洩の原因は主に二つあり、一つは従業員による過失(内部不正:ヒューマンエラー・故意による漏洩)、もう一つは悪意のある第三者による故意行為(サイバー攻撃など)です。
情報漏洩が発生した場合、その影響は長期にわたるため、企業イメージの回復は容易ではありません。企業は情報の取扱いに常に注意を払い、適切なセキュリティ対策を講じる必要があります。漏洩が発生すると、顧客や取引先の信頼を失うだけでなく、金銭的ダメージも大きく、賠償金や対応費用が発生します。
さらに、情報漏洩への対応に追われることで、通常業務のリソースが不足し、業務効率が低下する可能性もあります。企業は情報セキュリティ対策を徹底し、従業員への教育や意識向上を図ることが重要です。また、定期的な内部監査やシステムの更新、外部セキュリティ専門家の活用など、多角的な対策を講じることで、情報漏洩リスクを最小限に抑える努力が求められます。
情報漏洩が企業に及ぼす影響や対策方法について詳しく知りたい方は下記記事をご覧ください。
情報漏えいによる3大リスク|発生原因や企業にもたらす影響、実践的な対策方法まで徹底解説
労務リスクの影響
労働リスクが顕在化すると、企業と従業員の双方に深刻な影響を及ぼします。
従業員にとって、長時間労働やハラスメント、不当解雇などの労働問題は、身体的・精神的な苦痛を与える可能性があり、場合によっては過労死や自殺といった最悪の事態を引き起こすこともあります。
また、企業にとっても、労働リスクの顕在化は金銭的損失を伴います。損害賠償金の支払い、罰金、追徴金などの直接的なコストに加え、訴訟費用やコンプライアンス体制の見直し、追加の教育・研修に伴うコスト、それらの対応にかかるリソースも膨大です。さらに、労働基準監督署からの是正勧告や行政処分を受けることで、追加の対応コストが発生します。
労働リスクが発生し世間に知られることで、社会的信用の失墜や企業イメージの低下も大きな問題です。メディアによる否定的な報道や風評被害により、株価の下落や投資家からの信頼喪失、さらには取引先や顧客との関係悪化が懸念されます。
このような状況が続くと、従業員の生産性の低下や業務効率の悪化を引き起こし、業務遂行に支障をきたすことが多くなります。上記に伴い、離職率が上昇し、人材確保が難しくなることは避けられません。
最悪の場合、経営陣の責任追及や辞任要求、事業継続の危機に直面し、最終的には倒産に至る可能性も否定できません。したがって、企業は労働リスクを適切に管理し、未然に防ぐための対策を講じることが極めて重要です。
労務リスクを回避する方法
労働リスクを回避するための具体的な対策を講じることは、企業経営において極めて重要です。本セクションでは、労働リスクを未然に防ぐための実践的な方法を解説します。
就業規則の見直しや整備、従業員教育の実施、相談しやすい職場環境の構築など、すぐに取り組める対策を中心に、労働リスクを軽減するためのポイントを詳しく説明します。企業がリスクを回避し、健全な労働環境を維持するための具体的なアクションを明確に理解できるようになります。
就労規則の見直しと整備
就労規則は、労働条件や従業員が守るべき規則を明確にした重要な文書です。労務リスクを回避するためには、まずこの就労規則が現実の労働環境に適しているかどうかを確認することが必要です。労働基準法や労働契約法などの関連法令に則った内容になっているかを再確認し、不足している部分や時代遅れの規定がないかを検討します。
実際の労働環境と規則に乖離があると、従業員が「契約時の話と違う」と感じ、労務トラブルが発生する原因となります。このため、就労規則は定期的に見直し、必要に応じて修正や追記を行うことが重要です。
具体的には、過重労働の防止策、ハラスメント対策、残業代の支払い基準などを明確に規定し、法令に基づく適切な規則が整備されていることを確認します。
また、規則が整備された後は、管理者および従業員に対して労務リスクに関する教育を行うことが不可欠です。これにより、全員が規則を理解し、適切な行動が取れるようになります。教育プログラムには、労働法の基本、社内規則の内容、リスク回避の方法などを含め、定期的な研修を通じて知識のアップデートを図ることが推奨されます。
こうした対策を講じることで、労務トラブルのリスクを減少させ、企業全体のコンプライアンスを向上させることができます。
相談窓口の設置
労務リスクを回避するためには、従業員が労務に関する悩みや問題を相談できる窓口の設置が不可欠です。専任の相談窓口を設置することで、従業員は労働条件や職場環境に関する不満、悩みを迅速に解決することができ、潜在的なトラブルが大事に至る前に対応できます。
相談窓口には、専門的な知識を持った担当者を配置し、信頼できる情報提供やアドバイスを行える体制を整えることが重要です。相談内容は機密として取り扱い、従業員が安心して話せる環境を整える必要があります。また、相談窓口を通じて得られた情報を基に、問題の早期発見と適切な対応が求められます。
さらに、メンタルヘルス対策システムの導入も効果的です。メンタルヘルス対策システムは、労務リスクをいち早く発見し、適切な対応策を講じるための有用なツールとなります。
従業員の不満解消が職場の安心感向上につながるため重要な施策です。上記対応により、従業員の満足度と企業のリスク管理能力を高めることができます。
相談しやすい職場環境の構築
労務リスクを回避するためには、従業員が気軽に悩みや不安を相談できる職場環境の構築が不可欠です。特に、管理者やリーダーは、従業員とのこまめなコミュニケーションを心がけ、信頼関係を築くことが重要です。
定期的な個別面談やチームミーティングを通じて、従業員の状況や悩みに耳を傾け、異変や不満を早期に察知しましょう。
また、管理者は従業員の心理的な変化に敏感になり、問題が大きくなる前にヒアリングを行うことが求められます。これにより、従業員が抱える小さな悩みや問題を早期に把握し、適切な対応を講じることができます。
職場環境の整備としては、相談しやすい場の設置や、匿名での意見提出が可能な仕組みを導入することも有効です。相談できる場所があることで、従業員は安心して問題を共有しやすくなります。問題が発生した場合でも、従業員が躊躇せずに相談できる環境が整っていれば、大きな問題に発展するリスクを軽減できます。
このように、相談しやすい職場環境を作ることで、労務リスクを未然に防ぎ、問題が発生しても迅速に対応できる体制を整えることができます。結果として、従業員の満足度と企業の安定性が向上します。
労務管理システムの導入
労務管理システムの導入は、労務リスクを効果的に回避し、企業の運営を円滑にするための重要な手段です。労務管理システムには、人事情報管理や勤怠管理、給与計算など、労務管理を総合的にサポートするITツールがあります。
例えば、勤怠管理ツールを利用することで、従業員の出退勤時間を正確に記録し、労働基準法に基づく適正な労働時間の管理が可能となります。また、給与計算ツールを活用すれば、残業代の計算ミスを防ぎ、適正な支払いが確保されます。これにより、長時間労働や残業代未払いのリスクを軽減し、従業員の不満を解消することで労働トラブルの発生を未然に防ぐことができます。
さらに、労務管理システムは人事情報の一元管理を実現し、従業員の異動や昇進、休暇の申請状況などを一括して管理できます。管理者は従業員の状況を把握しやすくなり、適切な対応が迅速に行えるようになります。
また、システムはコンプライアンスの遵守を支援し、法令の改正に対応するためのアップデートが提供されるため、常に最新の労働法規に準拠した労務管理が可能です。法的リスクを最小限に抑え、企業の信頼性を維持することができます。
従業員教育の実施
労務リスクを回避するためには、従業員が正しい知識を身につけることや、組織全体の意識を高めることが重要です。具体的には、労働法やハラスメント防止に関する教育を定期的に実施し、法令遵守の意識を強化します。
また、人事・労務担当者は、勤怠管理やハラスメントなど労務に関する各種法令について深い理解を持つことが求められます。これには、実務的な知識を身につけるための研修やセミナーの参加が有効です。さらに、衛生管理者やメンタルヘルス・マネジメント検定などの資格を取得することで、より実践的な知識を得ることができます。
特にトラブルが発生した際に最初に対応するのは、従業員と密接に関わる管理職であるため、現場の管理職に対する教育も重要です。管理職は、適切な対応を行うことで労務リスクの低減に寄与します。そのため、管理職向けの労務管理研修やリーダーシップ研修を実施し、適切なマネジメントスキルを養成することも視野に入れましょう。
従業員教育の効果を最大化するためには、定期的な研修とフォローアップを行い、最新の情報や事例を共有することが重要です。全従業員が常に最新の労務リスクについての知識を持ち、適切に対応できる体制を整えましょう。
上記を実施することにより、企業全体のコンプライアンス体制を強化でき、健全な労働環境を維持することができます。
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まとめ|労務リスクは日常の対策が重要
テレワークや副業の普及により、新しい働き方に対応した労務管理が一層求められる時代となっています。だからこそ、労務リスクの軽減には、日常的な管理と未然防止対策が不可欠です。
まず、就業規則を定期的に見直し、法令に準拠した内容に整備することが重要です。これにより、従業員の権利保護と企業の法的リスクを抑えることができます。さらに、従業員に対する教育や研修を通じて、組織全体の意識を高めることや、正しい知識を身につけることができます。
また、従業員との定期的なコミュニケーションを通じて信頼関係を構築し、潜在的な労務リスクを事前に把握・対処することが重要です。こうした対策を日々徹底することで、企業の安定経営と従業員の満足度向上を実現しましょう。
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