最終更新日 2024.10.7
カスタマーハラスメント(カスハラ)とは、過剰な要求や不当な言いがかりなどの迷惑行為を指します。
本記事では、カスハラの具体例、深刻化するカスハラ被害の現状と要因を解き明かします。さらにクレームとの違いや、カスハラが企業に与える影響、具体的な対応方法まで解説していきます。ぜひ最後までご覧ください。
カスハラ(カスタマーハラスメント)とは
カスハラはカスタマーハラスメントの略称で、顧客や取引先から従業員に対して行われる過剰な要求や不当な言いがかり、嫌がらせなどの迷惑行為を指します。本章では、カスハラの定義や概要などを解説します。
カスタマーハラスメントの定義と特徴
厚生労働省が発表している「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」では、以下のように定義されています。
顧客等からのクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、当該手段・態様により、労働者の就業環境が害されるもの
カスタマーハラスメントは、全てのクレームを指すわけではなく、その中でも過剰な要求を行ったり、商品やサービスに不当な言いがかりをつける悪質な内容が該当します。企業は、カスタマーハラスメントから従業員を守る対応が求められています。
出典:厚生労働省|カスタマーハラスメント対策企業マニュアル
カスハラの種類と具体例
【暴言や罵声】
サービスに不備があった場合(在庫切れ、従業員の対応ミスなど)でも、怒号を浴びせたり、人格を傷つける侮辱的な言葉を投げつけるような行為は、カスハラに該当します。
- 「死ね」「馬鹿」など人格を傷つける暴言
- 大声で罵倒する罵声
【威圧的な態度】
自身の立場を利用して従業員を一方的に従わさせるために威嚇する行為はカスハラに該当します。
- 高圧的な態度で一方的に従わせる
- 些細な理由で威嚇・圧迫する
【過大な要求】
顧客側の主観的な感情から、飲食店側が受け入れられない過剰な要求をする行為は、カスハラに該当します。
- 「慰謝料を100万円払え」など現実的でない要求
- 「土下座しろ」など法的に問題のある要求
【長時間拘束】
顧客が従業員を不当に長時間拘束し、業務を遂行できない状況にさせる行為は、カスハラに該当します。
- 本来の業務とは関係ない長時間の対応を強いる
【人格否定】
顧客が従業員の年齢や経歴を理由に人格を攻撃する行為や、能力を否定したり、侮辱的な言葉を浴びせる行為は、カスハラに該当します。
- 従業員の性格や能力を否定する発言
- 要求が通らないことの腹いせとしての個人攻撃
【執拗な嫌がらせ】
店舗や従業員に固執した、繰り返される文句や迷惑行為などの嫌がらせは、カスハラに該当します。
- 毎日電話するなど同じクレームを延々と繰り返す行為
【セクハラまがいの発言】
顧客から従業員に対してセクシャルな言動や行為はカスハラに該当します。
- 不適切なジェスチャーや過剰な視線を送る行為
- 従業員の人格や尊厳を傷つけるようなわいせつな発言
カスタマーハラスメントは、顧客トラブルを超えた深刻な問題に発展する危険性があります。従業員のメンタルヘルスが損なわれ、企業の生産性や業績にも重大な影響を及ぼしかねません。企業は従業員に対するこうした嫌がらせ行為をカスハラと認識し、適切な対策を講じる必要があります。
カスハラ(カスタマーハラスメント)の現状
日本では、カスタマーハラスメントが深刻な問題となっています。その現状と、発生背景にはどのような原因があるのでしょうか。本章では、日本のカスハラの現状と背景を解説します。
日本で発生しているカスハラ被害の現状
<2人に1人がカスハラを経験>
UAゼンセンが6月5日に発表した「カスタマーハラスメント対策アンケート調査*」(第3回、速報値)によると、直近2年以内に迷惑行為被害にあっている人が46.8%(1万5508件)いることが明らかになりました。2020年に実施した第2回調査時の56.7%と比較すると、10%近く減少しているものの、2人に1人はカスハラ被害にあっています。
2020年 | 2024年 | |||
割合 | 件数 | 割合 | 件数 | |
あった | 56.70% | 15,256 | 46.80% | 15,508 |
なかった | 43.30% | 11,648 | 53.20% | 17,625 |
アンケート調査*:UAゼンセン所属組合のうち、流通・サービス関連の組合員に対し実施
(回答組合数:210組合、回答件数:3万3133件、期間:2024年1~3月)
<カスハラのほとんどが男性と判明>
また、カスハラの男女別の傾向として7割が男性であることが判明しています。(男性70.6%(1万945件)、女性27.1%(4210件))年代別でみると50代、60代で5割以上を占める結果となっています。(50代27.2%(4221件)、60代29.4%(4557件))
2020年 | 2024年 | |||
割合 | 件数 | 割合 | 件数 | |
男性 | 74.80% | 11,415 | 70.60% | 10,945 |
女性 | 23.40% | 3,567 | 27.10% | 4,210 |
回答しない | 1.80% | 272 | 2.30% | 353 |
<主なカスハラは暴言>
カスタマーハラスメントの発生原因は、2020年と同様に「顧客の不満のはけ口・嫌がらせ(26.7%)」「わからない(17.3%)」「消費者の勘違い(15.1%)」が半数以上を占める結果となりました。
実際のカスハラ行為の内容は、「暴言」(39.8%)「威嚇・脅迫」(14.7%)、「何回も同じ内容を繰り返すクレーム」(13.8%)が多数を占める深刻な状況が続いています。
2020年 | 2024年 | |||
割合 | 件数 | 割合 | 件数 | |
暴言 | 39.30% | 5,988 | 39.80% | 6,170 |
威嚇/脅迫 | 15.00% | 2,287 | 14.70% | 2,281 |
何回も同じ内容を繰り返すクレーム | 17.10% | 2,610 | 13.80% | 2,140 |
長時間拘束 | 7.80% | 1,194 | 11.10% | 1,723 |
権威的(説教)態度 | 11.20% | 1,711 | 10.20% | 1,583 |
セクハラ行為 | 2.30% | 350 | 3.70% | 573 |
金品の要求 | 2.10% | 322 | 1.20% | 181 |
暴力行為 | 1.40% | 207 | 1.10% | 178 |
SNS・インターネット上での誹謗中傷 | 0.30% | 47 | 0.80% | 117 |
土下座の強要 | 0.60% | 90 | 0.40% | 58 |
その他 | 2.90% | 449 | 3.20% | 504 |
特に懸念されるのが、「長時間の拘束」(2020年7.8%→2024年11.1%)、「セクハラ行為」(2.3%→3.7%)、「SNSインターネット上での誹謗中傷」(0.3%→0.8%)など、人格を傷つけるカスハラが増加していることです。従業員への心身の影響も看過できません。被害報告の中には、寝不足や心療内科への通院を訴える声も上がっており、健康被害が現れています。
このように、社会全体でカスハラへの意識が高まり、企業と顧客の両面から具体的な対策が講じられた結果、カスハラ被害は減少に転じたと言えます。しかし依然として一定数の被害が後を絶たず、従業員のメンタルヘルスが損なわれ、休職や退職に追い込まれるケースも少なくありません。さらに企業の生産性低下や人材確保の障害にもつながっている深刻な社会問題です。
出典:UAゼンセン|カスタマーハラスメント対策アンケート調査
カスハラ被害が2020年よりも減少している理由
カスハラ被害が減少傾向にある要因として以下が考えられます。
まず、カスハラ問題が社会的に可視化され、その深刻さが広く認知されるようになったことです。メディアでの報道や企業内での啓発活動を通じて、カスハラが従業員の人権を侵害する重大な問題であることが浸透してきました。
また、企業がカスハラ対策のガイドラインを策定し、具体的な再発防止に取り組んだことが挙げられます。対応マニュアルの整備や従業員研修の実施など、組織的な対策が進めらました。
さらに、SNSの普及により、迷惑行為が拡散するリスクが高まったことも一因です。顧客自身が自らの言動を自重せざるを得なくなり、カスハラ行為を抑制する効果があったと考えられます。
カスハラの背景と原因
カスハラが増加した背景としてSNSの普及が一因となっています。
直近ではSNSの持つ「監視作用」により、カスハラ被害が減少しましたが、そもそものカスハラ被害の増加原因は、SNS普及により顧客側の発信力が増加し、権利意識が高まったからと考えられます。それに伴った企業側の過剰なサービス姿勢がカスハラの助長に繋がりました。日本のサービス残業の風潮も、過剰なサービスを当然と考える顧客が増加したきっかけであると言えます。
上述したように、カスハラの増加背景にはSNSの影響や顧客意識の変化があるものの、根本原因は顧客側の心理的・精神的な問題にあると考えられています。自己承認の欠如から来る攻撃性や、他者を受け入れられない性質がカスハラにつながっているのです。
このように、日本ではカスハラが深刻な問題となっており、顧客と企業の両方の要因が複雑に絡み合って発生している状況にあります。政府や企業はカスハラ対策に真剣に取り組む必要があると指摘されています。
カスハラが引き起こすリスク
カスタマーハラスメントは、企業の健全な運営を脅かす深刻な問題です。カスハラが企業に引き起こす具体的なリスクは以下が挙げられます。
- 生産性低下
カスハラにより従業員のモチベーションが低下し、生産性が大幅に落ちるリスクがあります。暴言や人格を傷つけられるような嫌がらせを受けた従業員は、心身ともに大きなストレスを抱えてしまいます。カスハラの対応に時間を取られ、通常の業務に専念できなくなれば、売上や利益の損失に繋がり、対応した従業員も最悪の場合は休職や離職につながります。人手不足が深刻化すれば、最低限の人数で業務を行わざるを得ず、生産性の低下は避けられません。
- 従業員の休職・離職
カスハラにより従業員が心身ともに疲弊し、メンタルヘルスを損なう恐れがあります。不眠や頻繁な休みなど、深刻な影響が出てくる可能性があります。最悪の場合、メンタルダウンから休職に追い込まれ、貴重な人材を失うリスクにもつながります。人材を失えば、業務運営に支障が出るだけでなく、新規採用や再教育にもコストがかかります。人的資源の流出は、企業の生産能力を直撃します。
- レピュテーションリスク
カスハラは従業員個人のみならず、企業の人的資源と業務運営、企業ブランド価値にまで大きな影響を及ぼします。カスハラ被害が社会的に広く知れ渡れば、企業イメージが大きく損なわれ、優秀な人材の確保が困難になるだけでなく、既存の顧客からも見放される可能性があります。
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>>SNS時代のレピュテーションリスク対策術とは?
このように、カスハラは従業員の生産性低下、人材流出、企業ブランド価値の低下など、企業の経営基盤そのものを揺るがす深刻な問題です。適切な対策を怠れば、業績に甚大な影響を及ぼすリスクがあります。企業は適切な対策を講じ、このようなリスクを回避することが重要となります。
クレームとカスハラの違い
クレームとカスタマーハラスメントの違いを見極めることは、非常に難しい場合があります。適切な対応を取るためには、両者を正確に区別することが重要です。
本章では、クレームとカスハラの違いについて詳しく説明し、それぞれを見分けるためのポイントを解説します。問題が発生した際に、正確に切り分けて適切な対応ができるようにするための知識を身につけましょう。
クレームとカスハラの違い
カスタマーハラスメントは、顧客や取引先から従業員に対して行われる過剰な要求や不当な言いがかり、嫌がらせなどの迷惑行為を指します。一見クレームに重なる要素もありますが、本質的な違いがあります。
顧客が合理的な理由もなく「不当」な言いがかりをつけたり、嫌がらせを行う場合は「カスハラ」が当てはまると考えられます。
一方クレームは、顧客が消費者として商品・サービスに対する不満や改善点を指摘する建設的な目的が根幹にあります。カスハラの場合は、商品・サービスの改善を特に求めず、顧客の個人的な行動で行われるケースが多いです。特に、従業員を攻撃する目的が大きく行動に出ている傾向が見られます。
従って、顧客の主張が合理性を欠き、従業員に対する嫌がらせが目的化している場合は、クレームを超えてカスハラと判断すべきでしょう。企業は従業員の権利を守るため、カスハラを見逃さず、適切な対応を取ることが重要となります。
クレームとカスハラの見分ける基準
クレームとカスタマーハラスメント(カスハラ)を適切に見分けることは、企業が健全に事業を運営する上で極めて重要です。両者を区別するポイントは以下の2点です。
- クレーム内容の妥当性
顧客からクレームを受けた際、事実確認を行った上で企業側に過失がないか、顧客の要求内容が合理的かどうかを確認する必要があります。
企業側に過失があり、顧客の要求に妥当性がある場合は、正当なクレームとして真摯に対応すべきだと言えます。一方企業側に過失がなく、顧客の主張が不合理で過剰な場合などは、カスハラとして認識しましょう。
正当なクレーム:顧客の要求内容が合理的であり、企業の過失に対して適切な対応を求めるもの
カスハラ:顧客の要求内容が不合理であり、企業に過失がない場合や過剰な要求をするもの
- 要求の手段・態様
顧客の要求に一定の妥当性があったとしても、要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当な場合には、カスハラに該当する可能性があります。
正当なクレーム:要求の手段や態様が社会通念上妥当であり、冷静かつ建設的な方法で行われるもの(例:商品に欠陥があり、交換や修理を求める。)
カスハラ:要求の手段や態様が社会通念上不相当であり、暴言や脅迫、長時間の拘束など攻撃的な方法で行われるもの(例:商品に問題があり、謝罪と無償での商品交換を行うなど対応したが、その後も過剰な補償を要求する。さらに、従業員に対して暴言を吐いたり、長時間拘束する)
クレームとカスハラの違いは、要求内容の妥当性、要求の手段・態様を総合的に判断し、見極める必要があります。企業はこれらのポイントを軸に、正当なクレームには誠実に対応し、不当な要求や嫌がらせであるカスハラには毅然とした対応を取ることが重要です。これにより、従業員のメンタルヘルスを守り、企業の健全な運営を維持することができます。
カスハラへの対策方法
本章では、カスタマーハラスメントのリスクを理解した上で、企業が取るべき具体的な対策について解説します。企業がカスハラに対して適切に対処し、従業員が安心して働ける環境を整えるための指針を提供します。
企業が備えるべきカスハラ対策
カスタマーハラスメントの発生に備え、企業は事前に以下の対策を講じておくことが重要です。
- カスハラ対策方針(ガイドライン)の策定
企業の経営陣がカスハラに対する認識を明確にし、カスハラへの具体的な方針を策定します。企業としての基本方針や姿勢を明確にすることで、従業員を守り、安心して業務を進めることができます。
また、現場で行われるクレーム対応は「組織としての回答」に直結するため、上層部の意思や方針を決めておくことは組織にとって重要になってきます。カスハラに対するガイドラインは厚生労働省から「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」が発表されているので、参考にしながら作成することをおすすめします。
- カスハラ対応マニュアルの作成
カスハラの定義、具体例、対応手順などを網羅したマニュアルと対応フローを作成します。従業員がカスハラ被害にあった際に、戸惑うことなく適切な初期対応ができるように準備しましょう。
<例>
カスハラ対応マニュアル
①責任者(店長)を呼ぶ ※一人で対応しない
②顧客のクレーム内容、発生日時、対応者をメモする(認識に齟齬がないか復唱し、確認する)
③内容に関する事実や事象を明確化し、限定的に謝罪する
④顧客の名前、連絡先を聞く
⑤ハラスメント相談窓口に情報を共有する
- カスハラに関する相談窓口の設置
従業員がカスハラを受けた際に相談できる窓口を設置します。この窓口はカスハラだけでなく、その他のハラスメント対策にも対応できるように一元化する体制構築が望ましいです。
<例>
本社と連携して対応すべきケースを明確化する
店舗>相談窓口>本社などの連絡経路を整備する
- カスハラ被害者支援の体制構築
カスハラ被害を受けた従業員への心理的ケアや休暇取得支援などの配慮を行います。貴重な人材確保のためにも従業員が安心して働ける環境を整えることが重要です。場合によっては、精神科などの専門医と連携をとり、従業員の精神的ケアをしていくことも考慮しましょう。
- カスハラ対応に関する従業員研修の実施
従業員に、カスハラの知識を研修などで身につけさせます。ロールプレイングを用いた研修が効果的であり、従業員が実際の状況に対処するスキルを身につけることができます。研修は可能な限り全従業員に対して、定期的なカスハラ対応の研修を実施することが望ましいです。
- カスハラ事例の蓄積とマニュアルのアップデート
「カスハラ事例を蓄積>分析>マニュアル改定」のPDCAサイクルを回します。これにより、常に最新の情報と対策を従業員に提供することができます。
カスハラへの法的措置
カスタマーハラスメントへの適切な対応には、関連する法的側面を理解しておくことが重要です。本章では、企業側とカスハラ加害者側それぞれの法的責任について解説します。企業がカスハラ対策を怠った場合の法的リスクを認識し、一方でカスハラ行為者が背負う可能性のある罪を知ることで、カスハラへの対処の必要性が明確になるでしょう。
1.企業側の義務
労働契約法|従業員への安全配慮義務
会社は従業員に対し、生命・身体などの安全を確保しつつ労働できるように必要な配慮をするものとする。(労働契約法5条)
出典:厚生労働省|労働契約法のあらまし
上記の法第5条の「生命・身体などの安全」には心身の健康も含まれています。つまり、カスハラをする顧客が現れた場合、企業には従業員の安全を確保する法的義務があります。
この義務を怠った場合、従業員がカスハラによる精神的ダメージを受けてしまえば、企業は従業員から損害賠償を求められるリスクがあります。カスハラは単なるトラブルではなく、企業に法的リスクをもたらす重大な問題であると認識し、真剣に取り組まなければなりません。
労働施策総合推進法・厚生労働省指針|カスハラ対応に必要な体制を整備する義務
パワハラ防止法ともいわれるこの法律に基づき、企業はカスハラを含むハラスメント対策を講じる義務があります。 カスハラを「顧客等からの著しい迷惑行為」と定義し、企業が従業員に対して行うことが望ましい取り組みが以下例示されています。
①相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
- 相談先をあらかじめ定め、労働者に周知するすること
- 相談を受けた者が、相談に対し、その内容や状況に応じ適切に対応できるようにすること
②被害者への配慮のための取り組み
- 事案の内容や状況に応じ、被害者のメンタルヘルス不調への相談対応
- 著しい迷惑行為を行った者に対する対応が必要な場合に、一人で対応させない
出典:厚生労働省|「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」
2. 顧客(カスハラ行為者)が背負う罪
刑法
カスタマーハラスメントの態様次第では、カスハラ行為者である顧客が刑法上の罪に問われる可能性があります。
①暴行罪(刑法第208条)
2年以下の懲役もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料
→対応した従業員に暴力を振るった場合(従業員が怪我や病気をしなかった)
②傷害(刑法第204条)
15年以下の懲役または50万円以下の罰金
→対応した従業員に暴力を振るった場合(従業員が怪我や病気をした)
③脅迫罪(刑法第222条)
2年以下の懲役、または30万円以下の罰金
→対応した従業員や企業に対して大声を出す・モノを壊すなどの脅迫を行った場合
④恐喝罪(刑法第249条)
10年以下の懲役
→対応した従業員や企業に対して揺さぶりをかけたうえで過剰な見返りや金品の要求した場合
⑤強要(刑法第223条)
3年以下の懲役
→対応した従業員や企業に対して土下座や謝罪文を要求した場合
⑥名誉毀損罪(刑法第230条)
3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金
→対応した従業員や会社の名誉を傷つける発言をした場合(事実の摘示によって成立)
⑦侮辱罪(刑法第231条)
一年以下の懲役若しくは禁錮若しくは三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料
→対応した従業員や会社の名誉を傷つける発言をした場合(事実の摘示がなくても成立)
⑧威力業務妨害罪(刑法234条)
3年以下の懲役、または50万円以下の罰金
→暴行や脅迫などによってその場にいる人たちを怖がらせたり、迷惑をかけたりして、会社の業務を妨害した場合
⑨軽犯罪法違反(同法1条5号)
1日以上30日未満の身柄拘束(拘留)、または1000円以上1万円未満の金銭徴収
→卑俗または乱暴な言動で他の人たちに迷惑をかけた場合
⑩不退去罪(第130条)
3年以下の懲役、又は10万円以下の罰金
→嫌がらせやプレッシャーをかけることを目的としてオフィスや店舗に居座るなどした場合
民法
カスハラをした場合、刑法だけではなく民法上の罪に問われる可能性もあります。
損害賠償責任(民法第709条)
カスハラによって企業や従業員に下記のような損害が生じた場合、加害者は不法行為責任を負う可能性があります。
- カスハラ行為者の対応によって従業員が精神的ダメージを受けた
- 企業がカスハラ対応にコストを要した
- 企業の名誉が毀損された
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
出典:民法709条
このように、カスハラには法的なリスクが伴います。企業はカスハラ対策を怠れば従業員から損害賠償を求められる可能性があります。一方でカスハラ加害者である顧客も刑事罰や損害賠償の対象となる可能性があります。
カスハラが実際に発生した際の対応フロー
実際にカスタマーハラスメントに直面した場合には、以下の流れに従って対応しましょう。
①マニュアルに沿って責任者へ引き継ぐ
②顧客の主張をヒアリングし、記録する
③現場限りでの対応か上層部と連携した組織的な対応かを判断する
④企業としての対応方針を決定し、顧客に通告する
⑤カスハラを受けた従業員のケア・保護を行う
⑥カスハラ対応マニュアルを見直す
①マニュアルに沿って責任者へ引き継ぐ
カスハラ対応マニュアルに従い、現場の対応方法を判断できる責任者を呼んだうえで、情報共有や引き継ぎなどを行いましょう。カスハラ対応で重要なのは、一人で進めず、必ず応援を呼ぶことです。カスハラのターゲットとなってしまった従業員の安全性確保だけでなく、客観性や公平性を保つためにも2人以上で対応することをおすすめします。
②顧客の主張をヒアリングし、記録する
企業として適切に対応するためには、顧客の主張をヒアリングし、記録に残すことが重要です。顧客と対応者間での認識の齟齬や、前言を翻した矛盾が発生することを防ぐためにヒアリング内容を記録として保存しておきましょう。
③現場限りでの対応か上層部と連携した組織的な対応かを判断する
深刻な事態に発展する恐れがあれば、現場だけの判断で対応を終えるのは危険です。クレームの内容次第では、一旦現場での対応を留保し、本社・上層部に状況を報告・相談して、組織的な対応方針を決定しましょう。
<例>
- カスハラが暴行や脅迫など、刑法上の犯罪に該当する可能性がある場合
- トラブルが深刻化し、大きな損害が生じるリスクがある場合
④企業としての対応方針を決定し、顧客に通告する
③で現場対応で終わらずに持ち帰った案件に関しては、組織的な対応方針を決定し、当事者である顧客に通告しましょう。
通告内容については、場合によって弁護士のアドバイスを受けることも重要です。
⑤カスハラを受けた従業員のケア・保護を行う
カスハラに直面した従業員は、精神的ダメージを受けているかもしれません。従業員が離職や休職に追い込まれないように、状況に合わせた適切なケアを施しましょう。深刻な状況な場合は、精神科などの専門医と連携をとり、従業員の精神的ケアをしていくことも考慮しましょう。
⑥カスハラ対応マニュアルを見直す
カスハラ事例からの学びを元に、今後のカスハラ対応の改善が必要か見直しましょう。
企業としてのカスハラ対応、従業員へのケアなどが適切であったのか、対応フローに見直しが必要であるか、イレギュラーが起こった場合の対応など、カスハラ対策を良化し、組織を守る体制づくりに繋げていきましょう。
企業には従業員を守る法的義務があり、対策を怠れば企業イメージの失墜や、従業員の休職・離職などのリスクにもつながります。だからこそ、カスハラへの事前の備えと、発生時の適切な対応が重要です。カスハラと判断された場合、法的措置(警察への通報、民事上の法的手段)を検討することも、従業員や企業を守るための手段として考えておきましょう。
まとめ
カスタマーハラスメント(カスハラ)は、クレームの中でも過剰な要求や不当な言いがかりなどの迷惑行為を指します。企業が健全な事業運営を行う上で、深刻な問題に繋がりかねません。
従業員のメンタルヘルスを損ない、生産性の低下や離職を招くだけでなく、企業のイメージや業績にも悪影響を及ぼします。だからこそ、企業はカスハラのリスクを理解し、以下の対策を講じる必要があります。
- 基本方針の決定
- マニュアル・対応フローの作成
- 相談窓口の設置
- 被害者への配慮、ケア
- 従業員研修の実施
- 事例の蓄積とカスハラ対応マニュアルのアップデート
加えて、カスハラが深刻化した場合は、警察への通報や民事上の法的措置を検討する必要があります。企業にはカスハラから従業員を守る法的義務があり、適切な対策を怠れば従業員から損害賠償請求を受ける可能性もあります。カスハラ対策は企業の健全経営に不可欠であり、事前の準備と発生時の適切な対応が何より重要です。
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